No.201新着 上を向いて歩こう 六八九の三人が作り、「SUKIYAKI」の名で世界を回った歌
「上を向いて歩こう」は、作曲家・中村八大のリサイタルのために作られ、NHK『夢であいましょう』の「今月のうた」として広まった。国内ではロカビリー風の歌い回しが歌謡界に好まれず、レコード大賞にも選ばれなかったが、1963年に「SUKIYAKI」の題で米ビルボードHot 100の1位になった。のちに震災後の歌のリレーや映画にもなり、作られた時の思いと、今の歌われ方のあいだには幅がある。
本文と出典
あらまし
「上を向いて歩こう」は、作詞・永六輔、作曲・中村八大、歌・坂本九の歌で、1961年10月15日に東芝からシングルが出た。三人は名前の数字から「六八九トリオ」と呼ばれた。日本では『ミュージック・ライフ』誌の国内盤ランキングで3か月続けて1位になり、2年後には「SUKIYAKI」の題でアメリカのチャートの1位に立った。1954年生まれのジージが小学生だった頃、テレビとラジオから流れていた歌である。
主なできごと
・1961年4月8日 NHK『夢であいましょう』放送開始(〜1966年4月2日、土曜夜の生放送)
・1961年7月21日 サンケイホールの「第3回中村八大リサイタル」で坂本九が初めて歌う
・1961年8月19日 『夢であいましょう』でテレビ初披露。10月・11月の「今月のうた」になる
・1961年10月15日 東芝からシングル発売(品番JP-5083)
・1961年 第12回NHK紅白歌合戦に、坂本九がこの曲で初出場
・1962年1月25日 東芝レコードのヒット賞で特別賞。日本レコード大賞には選ばれなかった
・1962年 この歌をもとにした映画『上を向いて歩こう』(監督・舛田利雄)。このころ英国のケニー・ボール楽団が演奏のみの版を「SUKIYAKI」の題で出す(1963年とする資料もある)
・1963年6月15日付 米ビルボードHot 100で1位(6月29日付まで3週)。キャッシュボックス誌では4週1位
・1964年5月15日 全米レコード協会のゴールドディスクを授与される
・1981年 米国のテイスト・オブ・ハニーが英語詞で歌い、Hot 100で3位
・1985年8月12日 坂本九、日本航空123便の墜落事故で死去(43歳)
・1994〜95年 4 P.M.の英語版がHot 100で8位
・2006年 文化庁と日本PTA全国協議会の「日本の歌百選」に選ばれる
・2011年 東日本大震災のあと、サントリーの広告で71人の芸能人がリレー形式で歌い継ぐ
・2026年12月25日 この歌の誕生を描く東宝配給の映画『SUKIYAKI 上を向いて歩こう』(監督・瀬々敬久)が公開予定。中村八大を岡田准一、永六輔を松坂桃李、坂本九を仲野太賀が演じる
リサイタルの一曲から「今月のうた」へ
この歌は、はじめから坂本九のために書かれたものではない。中村八大が自分のリサイタルで発表する曲として作り、そこで歌ったのが当時19歳の坂本九だった。坂本九はプレスリーのまねで日劇ウエスタン・カーニバルに出たロカビリー出身の歌手で、レコードを出してまだ1年ほどである。ウィキペディアによれば、坂本九のシングルとして録音することになったのは曲直瀬信子の推薦による。
広める場になったのが、NHK『夢であいましょう』である。この番組では毎月1曲、永六輔と中村八大の組み合わせで「今月のうた」を作り、番組の中で歌わせた。「上を向いて歩こう」はその初期の1曲で、同じ枠からはのちにジェリー藤尾「遠くへ行きたい」、梓みちよ「こんにちは赤ちゃん」(第5回日本レコード大賞)も生まれている。レコード会社の専属作家が書いて歌手に渡す、それまでの歌謡曲の作り方とは違う道筋だった。
歌い方への反発と、当時の受け止め
録音の場で、永六輔は坂本九の歌い方に強く怒ったと伝えられる。譜面は4拍子のゆったりした書き方だったが、坂本九は8ビートに乗せ、言葉の音を崩して歌った。歌い出しが永六輔の耳には別の言葉に聞こえたという。一拍遅らせて入る節回しは浪曲の感覚だとも、母親の小唄やプレスリー、バディ・ホリーの影響だとも言われる。間奏の口笛も坂本九本人である。
売れ行きは大きかった。神戸新聞によれば発売3か月で30万枚を超え、国内の累計は1968年時点で80万枚(堀内敬三『音楽明治百年史』)、1969年時点で100万枚(永六輔の述べた数字)とされる。どちらもオリコンの集計が始まる前の数字で、出どころも別々である。それでも評価は高くなかった。ロカビリー仕込みの歌い回しが保守的な歌謡界になじまず、レコード大賞にも選ばれていない。売れた歌と、業界が認めた歌が一致しなかった例である。
詞の中身は、自分の言葉で言い換えると、涙がこぼれないよう顔を上げて一人で歩く、という内容である。永六輔の孫で文筆家の永拓実は、安保闘争に敗れた若者たちを励ますための歌だったと書いている。ただし、これは本人の作詞メモのような一次資料ではなく、家族による説明である。
「SUKIYAKI」として1位になるまで
海外では、まずイギリスで演奏だけの版が出た。英パイ・レコードがケニー・ボール楽団の演奏で出したもので、発売年は日本語版ウィキペディアが1962年、英語版が1963年と分かれる。日本語の題は英語圏では覚えにくいとして、このとき「SUKIYAKI」の題が付けられたとされる。歌詞とは関係のない料理の名前で、米誌ニューズウィークのコラムニストは、「ムーン・リバー」を日本で「ビーフシチュー」の題で売るようなものだと評した。
アメリカでは、ラジオ局KORDのDJリッチ・オズボーンが坂本九の原盤をかけ、リクエストが集まったことが始まりである。キャピトル・レコードが1963年に原盤のまま発売し、6月15日付のビルボードHot 100で1位になった。日本語のまま歌われた曲で、ヨーロッパ以外の言葉の曲がHot 100の1位になったのは初めてである。アジアの歌手のシングルが次に1位になるのは、2020年のBTS「Dynamite」まで待たなければならなかった。世界約70か国で出て、総売上は1300万枚以上とされるが、これは各国の集計を足し合わせた推計で、一つの機関が数えた数字ではない。
カラオケで歌うなら
JOYSOUNDには坂本九の原曲版のほか、ガイドボーカル入り、ボーカルアシスト、ギターの弾き方が画面に出る「ギタナビ」の版が配信されている(曲番号4054ほか)。一方、2025年のDAM「演歌・歌謡」年間ランキング100位までと、JOYSOUNDの2025年年代別ランキング(各年代20位まで)には入っていない。個人が十八番として選ぶより、集まりで皆が口ずさむ歌として残っていると考えられる。間奏の口笛を誰が吹くかで場が和むのも、この歌ならではである。なお、ウィキペディアによれば、この曲の録音や通信カラオケでの利用はJASRACに預けられておらず、出版者の八大コーポレーションが扱っている。
評価の分かれる点
詞を何の歌と読むかは分かれる。安保闘争の挫折を背負った歌とする家族の説明がある一方、震災後の広告や学校の教材では、前向きな励ましの歌として扱われてきた。国内の売上も、80万枚と100万枚の二つの数字があり、どちらも今の集計とは数え方が違う。
くらさんの考察
この歌が国境を越えた理由は、詞の意味より音の作りにあったと考えられる。アメリカの聞き手の大半は日本語が分からず、題まで料理の名前に変えられた。それでも1位になったのは、8ビートの軽い伴奏と、口笛で歌える旋律が、言葉なしで届いたからだろう。永六輔が怒った崩した発音が、結果として外国の耳には「歌の響き」として聞こえた、という皮肉もありそうだ。国内で今も歌われ続けているのは逆に、詞を「悲しみ」とも「励まし」とも取れる幅があり、その時々の出来事が重ねられてきたからと考えられる。
ジージへの問いかけ
・子どもの頃に聞いた坂本九の崩した歌い方は、ほかの歌手と違って聞こえましたか。
・この歌を、悲しい歌と励ましの歌、どちらとして覚えていますか。
・12月公開の映画で、三人のうちだれの描き方がいちばん気になりますか。
出典
・ウィキペディア「上を向いて歩こう」 https://ja.wikipedia.org/wiki/上を向いて歩こう
・ウィキペディア「夢であいましょう」 https://ja.wikipedia.org/wiki/夢であいましょう
・Wikipedia "Sukiyaki (song)" https://en.wikipedia.org/wiki/Sukiyaki_(song)
・コトバンク「上を向いて歩こう」(デジタル大辞泉プラス) https://kotobank.jp/word/%E4%B8%8A%E3%82%92%E5%90%91%E3%81%84%E3%81%A6%E6%AD%A9%E3%81%93%E3%81%86-695832
・サライ.jp(永拓実の連載) https://serai.jp/hobby/1076838
・リアルサウンド映画部「岡田准一が『上を向いて歩こう』作曲家・中村八大に」(2025年2月20日) https://realsound.jp/movie/2025/02/post-1933861.html
・THE FIRST TIMES(2026年4月10日) https://www.thefirsttimes.jp/?p=792509
・JOYSOUND「上を向いて歩こう」曲ページ https://www.joysound.com/web/search/song/4054
・カラオケDAM「演歌・歌謡 年間ランキング」2025年 https://www.clubdam.com/genre/enka/ranking_year.html
・JOYSOUND「2025年 年代別カラオケ年間ランキング」 https://www.joysound.com/web/s/karaoke/feature/annual_age_2025
動画
・Sukiyaki(Kyu Sakamoto - Topic)https://www.youtube.com/watch?v=F284iB65-QU
・【予告】映画「SUKIYAKI 上を向いて歩こう」<12月25日(金)公開>(東宝MOVIEチャンネル)https://www.youtube.com/watch?v=4FNDtxCaA8U
関連動画
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